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誰かのために動く時 ⑪

مؤلف: 秋月 友希
last update تاريخ النشر: 2025-07-17 22:49:11

「張り巡らされた水路の一角に、ヴィクターが好んで使う場所がある。いや正確には、“あった”か。三叉路になっている水流の交点、かつて噴水があった場所の近くだ。道が折れ曲がって地下への傾斜が始まる辺りだな」

 男は視線をアリシアの地図に向けながら、言葉を発した。

「この辺り……だと思う」

 アリシアが男の言葉を聞き終えるのとほぼ同時に、すぐ隣に立っていたセラが地図を指し示した。

「噴水の跡っていうのは、この広場の中央にある枯れた井戸のこと。三叉路の水路は、そこから西と南、そして、もう一つは傾斜を辿って地下へと流れてた」

 アリシアはセラの指す位置に視線を落とした。

「その地下通路に面した店だが、かつては酒場として使われていた。隠れ家として人気を博していたが、今では、もうすっかり忘れ去られている」

 男はそう言って、視線を遠くに向けた。

「仲間が追跡していた時、ヴィクターがそこに入って行ったのを目撃している。今もその場所を使っているんじゃないか。隠れるのに、それ以上の最適な場所はないからな」

「それって、今は居ないかもしれないってこと? これでは、確かな情報とは言えないわね」

 アリシアは地
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  • 水鏡の星詠   水鏡の彼方へ

     一方、その喧騒から遠く離れた場所── 東の空が白み始め、夜の帳がゆっくりと上がろうとしていた。 朝陽が空を黄金色に染め上げ、漂う霧を晴らしていく。その光の中に、二つの影があった。 リノアとエレナだ。 彼女たちはすでに新たな旅路へと足を踏み出していた。 だが、リノアはふと足を止め、何度も後ろを振り返った。遠く霞むアークセリアの方角を、不安げな瞳で見つめる。「……エレナ、さっきの」 リノアが口ごもる。脳裏に焼き付いているのは、森ですれ違ったあの奇妙な白仮面の集団だ。彼らが向かった先は、間違いなくアークセリアだった。「あの白仮面の人たち……すごく嫌な感じがした。ただの旅人には見えなかった」 星詠みとしての直感が、ざわざわと胸を騒がせている。 しかし、エレナは困ったように眉を下げ、首を横に振った。「気にはなるけど、彼らが何者かも分からないわ。それに──」 エレナは、二人が来た道を振り返る。そこはもう、容易には戻れない険しい道のりであり、引き返す手段は失われていた。「今から戻る手段はない。私たちにできることは、もう前に進むことだけよ」「……うん、そうだね」 リノアは唇を噛み締め、頷いた。 正体も目的も分からない集団のために、シオンの遺志を放棄して立ち止まるわけにはいかない。あの胸騒ぎが杞憂であることを祈るしかなかった。 リノアは胸元のペンダントをぎゅっと握りしめる。掌に伝わる冷たいヴェールライトの感触だけが、今の彼女を支える確かな指針だった。『進め、リノア』 シオンの声が聞こえた気がした。その声はもう、悲しみの残響ではない。未来を指し示す道標だ。「リノア、行くわよ」 前を歩くエレナが振り返り、朝陽の中で微笑んだ。その頼もしい姿に、リノアは強く頷き返す。「うん、行こう」 戻れないのなら、行くしかない。この道の先に、全ての答えがあると信じて。 リノアは一度だけ振り返り、遠く霞む故郷の方角を見つめた。 シオンが守りたかったもの。そして、父と母の生存── この広い世界のどこかで、二人が待っているかもしれない。その可能性が、リノアの足に新たな力を宿らせていく。 リノアは顔を上げ、前を向いた。「待っていて。必ず、見つけ出すから」 その瞳には、不安を振り払うような強い光が宿っていた。リノアの誓いが風に溶け、高く澄んだ空へと吸い込ま

  • 水鏡の星詠   風の止む刻 ②

    「他に敵はいないようだな」 そう言って、カリスは剣へと歩み寄った。 広場の騒然とした空気の中で、カリスだけが異質な静けさを纏っている。 カリスが広場に姿を現すと、ヴィクターは彼女を見るなり肩の力を抜いて、安堵の息を漏らした。──女性剣士、カリス。 カリスはグリモア村の村長であるグレタに付き添って旅を続けている。ミリアとテオの仲間でもあり、ヴィクターとは過去に行動を共にした仲だ。 アリシアとセラは突然現れた彼女の鮮やかな剣技に感嘆しつつも、警戒を怠らなかった。敵である術者を倒してくれたとは言え、アリシアとセラにとっては、カリスは見知らぬ人物だ。 剣を投げて敵を倒したカリスの背後で、セラとアリシアは互いに視線を交わし、周囲の状況を慎重に探った。 カリスは壁に突き刺さった剣を抜き取ると、今度は地面に倒れ込んだ術者たちに視線を移した。 瓦礫の隙間に倒れた術者二人は、すでに動く気配もなく、顔色は青白くなり、微かな息も感じられない。その身体は力なく横たわり、指先すら動かさず、すでに命の灯が消えてしまったことは明らかだった。 騒然とした空気が落ち着きを見せる中、ようやく肩の力を抜くことができたテオが、カリスのもとへ歩み寄る。「来てくれて助かったよ」 テオが素直に礼を述べた。「他の術者たちはグレタ様が処理したはずだ。もう心配しなくていい」 カリスは安堵の表情を浮かべるテオに、そう告げた。 広場に漂っていた緊張が少しずつほどけていく。しばらく余韻に浸っていたテオは、ふとミリアの方へ視線を向けると、少し興奮した面持ちで声をかけた。「さっきの戦いだけどさ。空中に紋様を描いて、バリアを張るって……。あんなこともできたのか、知らなかったよ」 テオの驚きに、ミリアは目を伏せて微笑む。「実は、さっき術師たちが広場に描いた紋様を観察していたら、ある法則があることが分かって……。自分が知っていた砂紋占術の知識と組み合わせてみたの。こう描けばバリアができるはずだって」 そう言って、ミリアはゆっくりと右手を持ち上げると、空気中に見えない絵筆で線を描くように腕を滑らかに動かしてみせた。「砂の上に紋様を描く時と同じ要領で良いみたい」 描き終えると、両手をそっと合わせ、描いた紋様を包み込むように掌を重ねる。その瞬間、空間に淡い光がふわりと集まり、紋様がかすかに浮かび

  • 水鏡の星詠   風の止む刻 ①

     ミリアは仲間たちに視線を送り、小さな声で「よかった……」と呟くと、ほんの一瞬だけ涙ぐみながらも、嬉しさに頬を染めた。 広場の地面に刻まれた紋様が淡く揺れている。消え入りそうで儚い揺らぎだ。ミリアが仕掛けた細工は確かに広場の紋様を変質させたのだ。 動きを止める術者たち──宙に浮かんだまま、アリシアたちを凝視している。 その瞳に宿るのは、冷たい怒り── 辺りには歓喜の余韻が広がっている。しかし、その安堵のひと時は一息で掻き消された。──場の雰囲気が一変する。 術者の一人が荒々しく呪具を振りかざすと、新たな呪文を紡ぎ始めた。 風が止み、光が沈み、その場の空間が一瞬で重くなる。「……来るぞ!」 テオが叫んだ。 空間が震え、空気が押し潰されるような感覚が走る。「何してんだ! ミリア、下がれ!」 テオが叫ぶ。 しかし、ミリアは動かない。 仲間たちが反射的に建物の影へ身を潜める中、ミリアだけが一人、広場に佇んでいる。 ミリアは術者たちを見据えたまま、一歩、また一歩、前へと踏み出していった。 そのうち、術者の呪文が完成すると、重く淀んだ空間が張り詰めた糸が切れるように、びしりと音を立てて震えた。 宙に浮かぶ術者の掌から、淡い青白い光が渦を巻いて溢れ出す。 その光はみるみるうちに膨張し、閃光と共に激しい衝撃波が広場全体を駆け抜けた。 地面が激しく波打ち、砂埃が爆風に巻き上げられて空へと舞う。建物の窓ガラスが一斉に砕け散り、鋭い破片が光を反射しながら宙を舞った。広場のあちこちで鈍い衝突音が響く。 圧倒的な空気の奔流── 耳をつんざく轟音が広場一帯を揺るがす中、ミリアは両手を前に掲げ、素早く紋様を空中に描いていた。 指先が走るたび、ミリアの周囲に淡い光が浮かび上がる。光はやがて膜のように広がり、見えない壁となって衝撃波を遮った。 ミリアの髪とマントが風に巻き込まれて激しく翻る。ミリアは身体が一瞬浮かぶような感覚に襲われた。 顔に当たる風が頬を刺し、砂埃が目元をかすめていく。息を吸い込もうとするたび、喉の奥がひりついた。──呼吸ができない。 心臓が胸の内で乱打し、鼓動が早鐘のように胸の奥で響き渡る。 それでも、ミリアは動じなかった。 術者たちの姿を光の向こうに捉えたまま、目を逸らさない。 そのとき——広場とは異なる場所、闇に包まれ

  • 水鏡の星詠   優雅なる毒の前触れ ⑭

     ヴィクターが合図を送ると、仲間たちはすぐに広場の端へ散り、すぐに身を低くした。 導火線に火がつき、焦げた煙の匂いが辺り一帯を満たす。 じりじりとした導火線の音が響き、空気が張り詰めるような緊張の中、アリシアたちは息を潜めてその瞬間を待った。 やがて鈍い爆音が轟き、木の根元が激しく揺れた。土と焦げた木の匂いが一気に押し寄せ、毒の流れが一瞬だけ止まる。 爆煙が立ちこめる中、白仮面の術者たちが一様に動きを止めた。煙の向こうで、彼らの姿がぼんやりと揺らぎ、一瞬だけ戸惑う姿を見せる。「くそ……、あれだけの爆薬でも倒しきれないなんて……」 ヴィクターは唇を強く噛みしめ、眉間に深い皺を寄せた。肩はわずかに震え、拳を握った手をぶるぶると膝の上で押し潰している。 ヴィクターの瞳が爆煙の向こうの大樹をじっと睨みつけて離さない。 爆風と煙が広場全体に広がる中、しばしの静寂が訪れた。 術者たちの視線が広場の中心へと向けられている。術者たちは状況を把握しようと周囲を見渡した後、広場の隅に目を遣った。そこには、たった今、ヴィクターが爆破した大樹がある。 噴出する毒の量が減ったとは言え、まだ毒は出続けていた。これだけの大樹を破壊するには、火薬が足りなかったのだろう。完全には破壊し尽くすことはできなかったようだ。 すぐに気を取り直した術者たちは、互いに合図を送るように身振りを交わした後、呪文の詠唱を再び始めた。爆煙が広がる中、煙を押し返そうと詠唱を強めていく。 彼らは複雑な印を次々と結びながら、再び紋様の効果を得ようと集中し続けた。 その光景をミリアは指先を震わせながら、じっと見つめていた。 広場に施した細工が本当に上手くいくのだろうか。もし術者たちが描いた紋様の効果が半減しなかったら……。そう思うと、不安で仕方がなかった。 仮に解読が誤っているなら、きっと、あの大樹は紋様の効果で再び復活してしまうだろう。 それでは意味がなくなってしまう。 だが、術者たちの様子が徐々に変わっていくのがはっきりと分かった。彼らは紋様に向かって呪文を唱え続けるものの、思うような効果が得られず、次第に苛立ちを見せ始めた。 術者たちはアリシアの温かみを帯びた上昇気流に抗うことができなかったのだ。 次第に術者たちの動きに焦りが混じり始める。 仮面越しにも伝わる苛立ち。表情こそ窺え

  • 水鏡の星詠   優雅なる毒の前触れ ⑬

     倒れていた町民たちの髪や服の裾を、そよ風が優しく撫でている。ふわりと髪が浮かび上がり、町民たちの服の裾をそっと揺らした。 アリシアは目を開けて、周囲の状況を確認した。 渦巻く風が広場を覆っていた毒と冷気を空高く舞い上げている。紋様が赤く輝き、喰い花の根が苦しげに震えているのが見えた。 しかし、まだ安心するのは早い。白い仮面を被った術者たちは動きを速め、広場の毒を留めようと力を増している。 今、ここに居るのは複数存在する敵のうち、二人しかいない。ヴィクターやテオ、そしてミリアが動き回っているが、仮にあの二人を倒したとしても、おそらく毒は出続けるだろう。 アリシアは空を見上げた。 白仮面たちが両手を空へと掲げ、懸命に紋様に魔力を注いでいる。仮面の奥の表情を伺うことはできないが、肩が小刻みに震え、衣の裾が不規則に揺れている。吹き荒れる風に抗っているのが、こちらにも伝わってくるかのようだ。 アリシアは、ふとミリアの動きに目を止めた。「一体、ミリアは何をしているのだろう?」 ミリアが広場の中央に跪き、白仮面たちが描いた複雑な紋様に目を凝らしている。 ミリアは砂紋占術師だ。ミリアは、その文様を解読しようとしているのかもしれない。 吹き上がる上昇気流の中、ミリアが指先を伸ばして、紋様の線の端に触れた。 指でほんの少し線を崩したり、瓦礫の破片を使って一部を覆い隠したりと、手作業で紋様の流れに微細な変化をもたらしていく。 ミリアの動きは慎重だ。まるで盤上に並ぶ魔法の駒を一手ずつ動かす頭脳戦のような、息詰まる静けさに包まれている。その指先は、運命を左右する一歩を選び取る賢者そのものだった。 きっとミスが許されない状況なのだろう。少しでも手順を間違えれば、勝負の流れは一気に敵へと傾いてしまう。ミリアにとって、ここは読み合いと決断の舞台なのだ。 ミリアは一つ一つの動作に細心の注意を払っている。 一方、ヴィクターはテオのように喰い花を切りつけることはせず、広場を取り囲む樹々をじっと観察していた。 ヴィクターは木工職人だ。何か意味があるに違いない。 ヴィクターの視線は一本一本の幹をたどり、やがて一本の大樹へと向けられた。──まさか、あれが喰い花の大元となる樹……? 他の木々とは異なり、異彩な雰囲気を放っている。 捻じれ曲がった幹は、まるで幾つもの蔦

  • 水鏡の星詠   優雅なる毒の前触れ ⑫

    「私が何とかしなければ……」 アリシアは震える声で呟いた。──セラの鉱石では、もう追いつかない。 喰い花の中心から噴き上がった毒の霧が、まるで生き物のように広場を覆い尽くしていく。 黒紫色の波がゆっくりと、しかし確実に地面を這い、逃げ場のない壁となって町民たちを包囲していった。空気は重く淀み、喉を刺すような痛みと共に、視界がじわじわと霞んでいく。 逃げ場のない障壁、複雑に絡み合う蔦── 誰かが転び、誰かが叫び、誰かが泣き崩れる。──このままでは、全員が毒に侵されてしまう。 アリシアはゆっくりと身体を起こし、ふらつく足で前に進んだ。胸元にしっかりと鉱石を抱きしめたまま── 倒れている町民たちが目に入り、アリシアの肩を小さく震わせた。過去の記憶が脳裏をよぎり、思わず立ち止まりそうになる。 幼い頃、アリシアは戦争の中で多くの苦しみを目の当たりにした。 瓦礫の中で倒れていた人たちの姿、助けを求めて差し伸べられた手、途方に暮れた表情。それらは今でもアリシアの記憶に深く刻まれている。 あの時の私には何もできなかった。その無力さが今も胸の奥を締め付ける。──私が皆を救わなければ。 そんな思いがアリシアの胸の内に湧き起こった。 アリシアは必死に前を向こうと、唇を固く結んだ。目の前の現実から目を逸らすことはできない。「アリシア、どこに行くの?」 セラの声が背後から届いた。 しかしアリシアには、その声が聞こえなかった。意識のすべてが、目の前で倒れている町民たちに注がれている。セラの声は遠くで風にかき消されるように薄れていき、アリシアの世界から切り離された。 今のアリシアには、助けを求める町民たち以外のすべてが霞んで見えている。 心の奥で動揺が渦巻く中、自分にできること──それだけを何度も胸の中で繰り返し思い描いていた。 今、ここでじっとしていても、状況は何も変わらない。自分が動かなければ、誰も救えない── そんな思いを込めながら、アリシアは崩れた瓦礫と倒れた人々の間を進んで行った。──絶対に誰も失わせない。 胸の奥でそう強く願い、アリシアは今、自分にできることを必死で考えた。 アリシアの手のひらに包まれた鉱石がアリシアの想いと共鳴するように、じんわりと温もりを帯び始める。 鉱石の奥に微かな光── 淡い輝きがアリシアの周囲を包み始め、

  • 水鏡の星詠   潜入捜査 ②

    「白い仮面の連中が地表を歩いていた理由はこれか?」 テオの視線が広場から外れ、街並みへと移った。 瓦屋根の連なりは崩れ、石畳の道は裂け、かつて整然としていたアークセリアの街並みが、赤く染まった霧の中で沈黙している。「うん、毒を避けたんだろうね」 ミリアが言う。「上空は地上よりも毒が拡散しやすい。だから地表に降りたってことか……。それにしても酷いな」 テオが広場を見据えて言った。「でも、全部じゃない。崩れてるのは、毒霧の濃度が高い広場と、その周辺だけ」 ミリアは広場から目を外側へ移した。 広場を中心に破壊と静寂が分かれている。 建物の崩壊は広場の周辺に集中しており、遠くの街並

  • 水鏡の星詠   東端の座標 ②

    「ヴェルディア家は頑固でしたからね。グレタ様の説得に彼らは最後まで抵抗していましたから。気になるので、ちょっと占ってみましょう」 砂紋占師のミリアが小瓶をひとつ取り出し、光にかざした。 それはミリアが占具として用いる特製の小瓶── 中には、フェルミナ・アークの地脈から採取された微細な砂が封じられている。魔力の流れに敏感なその砂は、未来の兆しに応じて様々な形に砂紋を変える。 砂の粒子が瓶の底に複雑な紋様を描き始めた。「……これは何かが割れる印」 ミリアは誰に語るでもなく、静かに呟いた。「裂け目の兆し──天と地の均衡が崩れるかもしれません」 その言葉が地に吸い込まれるように消えた

  • 水鏡の星詠   礼拝堂の防衛線 ⑧

     セラは扉の隙間に目を凝らし、地面に横たわるアリシアを見つめた。微かに動くその姿に希望が灯る。「しかし驚いたな。毒の解析をするだけかと思ったが、毒の濃度を薄めてくれるなんて。取り込んだ分だけ、毒の効果が薄まったということなんだろうが」 ヴィクターには動揺も焦りも見られない。状況を冷静に見極めようとしている。「ところでセラ、アリシアは大丈夫そうか?」 ヴィクターには動揺も焦りも見られない。状況を冷静に見極めようとしている。 「毒にやられて苦しんでる。早く助けに行かないと!」 セラが緊張した面持ちで言った。「ああ、分かってる。それに毒の源を断たないと意味がないしな。喰い花は死んではい

  • 水鏡の星詠   礼拝堂の防衛線 ⑦

    「毒を出してる……」 低く絞り出すような声だった。 ヴィクターの言葉にセラが振り返る。「毒?」 セラの声が礼拝堂の薄闇に震えながら響いた。「ああ、花から出てる。あの蔓の根元に咲いてる赤いやつだ」 ヴィクターが低く答え、窓の外を指差した。「あれは“喰い花”だ。木工に色を塗る時に使うこともあるけど、使い方を誤ると空気を濁らせる。いつもは白い。赤い色は初めて見るな」 毒を放つ時は、花が危険を察知した時──喰い花が自然に毒を放つことはない。「何もしなければ無害なんだが……」 ヴィクターの脳裏にゾディア・ノヴァの名がよぎった。ゾディア・ノヴァが何かを仕掛けに違いない。危険性を知る街

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